8月から9月にかけて旬のコハダ(小肌もしくは小鰭)の酢締めは江戸前寿司の代表的な光ものの定番のネタのひとつです。
コハダはうま味が強くさっぱりとした味わいで人気です。特にコハダの稚魚である「シンコ」の初物は1kg当たり数万円と高級魚顔負けの人気商品です。ただシンコは出回る期間が非常に短く、またその小ささ故に捌くのが大変な仕事なのと、酢と塩で締める塩梅が寿司屋職人の腕の見せ所になり、通常のスーパーなどでは難しくあまり一般には出回りません。
もう少し成長したコハダの握りなら、価格も手ごろでみんなが楽しめる美味しいお寿司のネタです。
お寿司と言えば「マグロ」その種類と健康効果、選び方のブログはコチラから←
コハダは北海道から九州南シナ海までの内湾や河口付近の真水と海水が混じり合った汽水域に群れで生息していて、プランクトンや小さな甲殻類や珪藻など食べています。
コハダの産卵期は地域によって異なりますが、温暖な南方だと初春の4月頃から始まり、寒冷な北方でも初夏の6月ぐらいには産卵が始まります。
卵は球形で直径1.5mmくらい、産卵後2~3日で孵化して3~4mm程度の仔魚が生まれて、2か月くらいの時間でシンコ(幼魚)サイズの4cmほどまで成長します。1年で体長10cm程度、2年で体長15cm、3年で20cm近くまで成長します。コハダ(コノシロ)の寿命はおよそ3年くらいと言われています。
コハダの正式名にはニシン目ニシン科コノシロ属コノシロになります。コノシロは成長の段階(大きさ)ごとに名前が変わっていき「シンコ(4cm程)」→「コハダ(8~10cm)」→「ナカズミ(12cm前後)」→「コノシロ(15cm以上)」となります。
それぞれの名前の由来は所説ありますが、有名なのは以下の通りになります。
出世魚の定義は
コハダは出世魚の定義に、ほとんど当てはまるのですが、成長と共に小骨が多くなり敬遠されて値段が安くなるという特徴があります。その為、一番若いシンコが一番高価で、成長したコノシロが一番安価になります。
コノシロも十分美味しいお魚なのですが、一般的には小さいシンコが柔らかく一番美味しいと言われて一番高価になってしまうのが、他のブリやスズキやカンパチなどの出世魚と異なり、コハダは成長とともに価値が低くなるので「逆出世魚」なんて不名誉な呼ばれ方をしてしまっている場合があります。
ただ、そんなコノシロですが、当てる字がたくさんある魚だったりします。先ずは一般的な「鮗」。次に魚偏に祭りで「鰶」、魚偏に制で「鯯」、最後に魚偏に庸で「鱅」。全て「コノシロ」と読みます。
コノシロは焼くと臭いが強く小骨が多いため、日本では主に捌いて酢締めにして食べますが、お隣の韓国ではごま油で焼いて召し上がるそうです。
またコノシロという呼び名は「この城」に転じられるので「コノシロを食う」は「この城を食う」になる為に武士からその名を嫌われたらしく、そのため武士の多い江戸(周辺の関東でも)では魚が成長して大きくなっても「コノシロ」とは呼ばずに「コハダ」と呼んでいたとも言われます。
ただ、コノシロは4種類も名前があるくらい各地で愛され続けてきた魚とも言えるかもしれません。
コハダは美味しいだけではなく、様々な栄養豊富で健康に良い魚です。
コハダにはタンパク質、脂質、ビタミンB群(ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン)、ビタミンD、ビタミンE、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、リン、鉄、銅、亜鉛、ヨウ素、セレン、DHA、EPAなどを含みます。
エネルギー | たんぱく質 | コレステロール | 脂質 | 炭水化物 |
146kcal | 19g | 68mg | 8.3g | 0.4g |
カリウム | カルシウム | マグネシウム | リン | 鉄 |
370mg | 190mg | 27mg | 230mg | 1.3mg |
ビタミンB2 | ナイアシン | ナイアシン当量 | ビタミンB6 | ビタミンB12 |
0.17mg | 2.1mg | 5.6mg | 0.33mg | 10μg |
葉酸 | パントテン酸 | ビオチン | ビタミンC | 食塩相当量 |
8μg | 1.13mg | 7.4μg | 0mg | 0.4g |
このしろ(生)栄養成分100g当たり【出典:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年】より
コハダに豊富に含まれるビタミンB群は、糖質、脂質、タンパク質の代謝を助ける補酵素として働き、エネルギー産生や細胞の再生、神経伝達物質の生成など、さまざまな生理機能に不可欠な栄養素です。
ビタミンB群の健康効果は、大きく分けて以下の3つにまとめられます。
ビタミンB群は、糖質、脂質、タンパク質の代謝を助け、エネルギーを生産する過程で重要な役割を果たします。ビタミンB群が不足すると、エネルギー産生がうまくいかず、疲労感、倦怠感、集中力低下などの症状が現れます。
ビタミンB群は、細胞の再生にも重要な役割を果たします。皮膚や粘膜、髪、爪などの組織は、常に新しい細胞に生まれ変わっています。ビタミンB群が不足すると、細胞の再生が遅れ、肌荒れ、口内炎、脱毛などの症状が現れます。
また、コハダが含むビタミンB12と葉酸は、赤血球の生成も助けており、摂取することに寄って貧血の予防効果が期待できます。
ビタミンB群の内、コハダにも含まれるビタミンB6は、神経伝達物質の生成にも重要な役割を果たします。神経伝達物質は、脳や神経の働きを調節する物質です。ビタミンB群が不足すると、神経伝達物質の生成がうまくいかず、うつ、不安、イライラなどの症状が現れます。
ビタミンB群は、水溶性ビタミンであるため、体内に蓄積されず、余分な分は尿中に排泄されます。そのため、1回にたくさん摂ることを考えず、毎日の食事からバランスよく摂取することが大切です。
また、コハダにはエネルギー代謝を助けるパントテン酸という補酵素が1.13mgと豊富に含まれています。パントテン酸は「炭水化物」「たんぱく質」「脂質」を分解する時に必要となる補酵素で、特に脂質の分解に必要なビタミンの一種です。
コハダに含まれるビタミンDは、骨の健康に重要な役割を果たす脂溶性ビタミンです。骨の形成や成長を促進するとともに、カルシウムやリンの吸収を助け、血中カルシウム濃度を一定に保ちます。
また、ビタミンDは太陽の紫外線を浴びることによって皮膚でも生成されますが、近代化が進むに連れて直射日光を浴びる時間が短くなったのと、皮膚トラブルを避けるために、日差しを避ける様にもなったので、積極的に食品から摂取して骨を丈夫にしていきましょう。
コハダにも含まれているビタミンEは、非常に抗酸化作用の高い脂溶性のビタミンで、体内で細胞を傷つけ、老化の原因になっている「活性酸素」を排除してくれます。またビタミンEは、血管を収縮させる神経伝達物質の生成を阻害し、血管を拡張させて、血流の改善や血中のコレストロールの改善、血管自体の老化を改善して動脈硬化を予防してくれます。
コハダにも含まれているカリウムは、体内で過剰になった塩分由来のナトリウムを排出するのを助けてくれます。ナトリウムが過剰になると、身体は体内の濃度を一定に保つ為、水分を血液内や体内に多く取り込もうとします。結果、血管内の圧力が高まる高血圧、体内の水過多のむくみの原因になります。
コハダに含まれるカリウムは、この高血圧やむくみの原因になるナトリウムを排出するのを助けてくれるので、むくみや高血圧の予防に効果が期待できます。
この様にコハダに含まれる栄養素は「疲労回復」「細胞の活性化」「気分を落ち着かせる」「老化の予防」「高血圧の改善」などなど様々な健康効果があるので、コハダは逆出世魚なんてとんでもない素晴らしい健康魚です。
成長と共に価格が下がってしまいますが、実は成魚のコノシロが一番うま味が強くなっています。その為、関西では塩焼きにして食べられていますし、酢漬けにしたりみそ焼き、煮付けにしたりして食べる地域もあります。
ただし、甘酢で締められていることが多いコハダを健康に良いからと大量に摂ると、甘酢に含まれる砂糖によって糖質も多く摂ってしまうことになるので、栄養バランスには気を付けて、適量と言われる100g程度を目安にコハダを楽しみましょう。
自宅で生のコハダの酢締めをする場合、酢だけでは食中毒の原因になる寄生虫のアニサキスは死滅させることができません。食事の安全の為にコハダを酢締めにした後、一度冷凍することによってアニサキスを死滅させてから召し上がる事をお奨めします。
美味しく健康に良いコハダを食べて、一緒に健康レベルを出世させていきましょう。
This website uses cookies.