紀元前からアフリカ北東部で栽培されてきたオクラ。その形から貴婦人の指(Lady’s Finger)とも呼ばれているこの野菜が日本に入って来たのは幕末から明治にかけてで、当時近縁種のトロロアオイのことを日本で「ネリ」と呼んでいたことからオクラの事を「アメリカネリ」と呼んでいたそうです。
アフリカなど温暖な地域では何年でも実をつける多年草ですが、日本の冬を越せない為、日本では一年草の野菜になります。また、暖かい気候を好むので、明治から昭和初期までは沖縄や鹿児島、伊豆諸島などの温暖な場所で多く栽培されていました。
昭和30年頃から徐々にオクラが日本全国に広まり出し、昭和50年頃には夏野菜としてオクラが定着しました。
日本はもちろん、原産地と言われるエチオピアを始めとしたアフリカ各国、インド、ブラジル、アメリカなどと多くの国々で愛されるオクラ。
美味しいのはもちろんのことながら、その豊富な栄養素が様々な健康に良い事が知られています。今回の記事では、そんなオクラの栄養素のご紹介と、ここ最近、海外の大学から発表された新たなオクラの健康効果についてご紹介致します。
おくらと言えば、その代表的な特徴として、刻んだ時に出る粘り気でしょう。このヌルヌルする成分はペクチンという食物繊維と、ムチレージという植物性たんぱく質によるものです。それぞれ腸内環境の改善や悪玉コレステロールの阻害などに効果があるとされています。
その他にも抗酸化に効果のあるβカロテンやビタミンC、エネルギーを作り出すのに必要なビタミンB1やB2、カルシウムや葉酸、食物繊維などの栄養素も豊富に含む栄養満点の野菜、それがオクラです。
次章では、そんなオクラの健康効果について深堀りしたいと思います。
エネルギー | 水分 | たんぱく質 | 脂質 | 食物繊維 | 炭水化物 |
26kcal | 90.2g | 2.1g | 0.2g | 5g | 6.6g |
ナトリウム | カリウム | カルシウム | マグネシウム | リン | 鉄 |
4mg | 280mg | 92mg | 51mg | 58mg | 0.5mg |
亜鉛 | 銅 | マンガン | ヨウ素 | セレン | クロム |
0.6mg | 0.13mg | 0.48mg | Tr㎍ | 0㎍ | 0㎍ |
モリブデン | ビタミンA | βーカロテン | β−クリプトキサンチン | ビタミンD | ビタミンE |
6㎍ | 0㎍ | 520㎍ | 1㎍ | 0㎍ | 1.2mg |
ビタミンK | ビタミンB1 | ビタミンB2 | ナイアシン | ビタミンB6 | ビタミンB12 |
66㎍ | 0.09mg | 0.09mg | 0.8mg | 0.01mg | 0㎍ |
葉酸 | パンテトン酸 | ビオチン | ビタミンC | 食塩相当量 | |
110㎍ | 0.42mg | 6.6㎍ | 11mg | 0.g |
オクラ 栄養成分100g当たり【出典:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年】より
オクラに含まれるβカロテンやビタミンC、ムチレージやペクチンは美容に非常に効果的です。
オクラに含まれるこれらの栄養素は、特に紫外線の強い夏に必要不可欠の栄養素です。紫外線による体のダメージを軽減する為にも、積極的にオクラを食事に取り入れていきましょう。
夏に最盛期を迎えるオクラ、そんなオクラには夏ならではの健康効果が期待されます。それは「夏バテ」と「高血圧」「高コレストロール」「血糖値の急上昇」。実はオクラに含まれる栄養素には、これらの問題を改善してくれる栄養素が含まれています。
オクラに含まれるビタミンB1には糖質を、ビタミンB2には脂質を、それぞれ効率よくエネルギーにしてくれる効果があります。これにより他の食材から摂った糖質や脂質をエネルギーに効率よく換えてくれることによって、暑い夏でもエネルギッシュに行動することができます。
またネバネバ成分であるムチレージには胃の粘膜を保護する役割もあります。これにより荒れやすい夏の胃の状態をカバーしてくれることが期待されます。
オクラ100gに含まれるカリウムは260mgになり、このカリウムは塩分の取り過ぎで体内で過剰になったナトリウムを排出するのを助けてくれます。これによりナトリウム濃度を薄めるために多く体内に取り込まれていた水分も排出されるので、全身のむくみや高血圧が改善されます。
夏場は熱中症対策に、水分や塩分を多く摂ることが多いので、意識してオクラなどのカリウムを豊富に含む食材を摂る必要があります。
なお、心臓や腎臓などに障害がある場合は、過度のカリウム摂取は危険ですので、その場合は必ず医師の指導に従ってください。
オクラに含まれる食物繊維のペクチンや、植物性たんぱく質のムチレージには、食事中のコレストロールの吸収を阻害する効果と糖分の吸収をゆっくりにして血糖値の急上昇を予防する効果が期待されます。
コレストロールの値が高いと動脈硬化などによる循環器の病気になるリスクが高まります。また血糖値の急上昇は血糖値スパイクを起こすだけでなく、上がった血糖値を下げる為にインスリンが分泌され、体内の過剰な糖分が脂肪として蓄積されます。
動脈硬化も過度の脂肪蓄積も、万病の元。適切な運動や食事量はもちろんのことながら、その手助けとしてオクラに含まれるネバネバ成分にも助けてもらいましょう。
この様にオクラには美容に良いだけではなく、夏バテの予防や血圧の安定、高コレストロール、高血糖の予防によって、様々な健康効果が期待されます。
オクラは生でも冷凍でも大きく栄養素が変わらない野菜です。ただし、オクラに含まれている水溶性の栄養素は、水に溶けだしてしまうので、その点だけは調理に注意が必要です。
ビタミンCや食物繊維のペクチンなどは水に溶けだしてしまいます。その為、余さずその栄養素を摂りたい場合は、スープなどにしてその溶け出した栄養素ごと食べる事をお奨めします。
オクラに含まれるネバネバ成分のペクチンやムチレージは熱に弱い成分です。その健康効果を積極的に摂りたい時は、是非とも細かく刻んだオクラを生食するようにしてください。
なお、大きくなってしまったオクラは、繊維が多く硬いので生食には向かず、加熱して食べる事をお奨めします。もしオクラを生食する場合は、なるべく小さなものを選ぶようにしてください。
現在も様々な研究機関によって、オクラの健康効果について日々調べられています。ここではいくつか、代表的な研究をご紹介します。
ピロリ菌は慢性胃炎の原因であり、放置すると胃がんの原因にもなる正式名称ヘリコバクター・ピロリという細菌の一種です。
そのピロリ菌が胃粘膜に付着するのを、未熟なオクラの多糖類を含む抽出物がブロックしてくれるという事が2015年ドイツのミュンスター大学の研究で判明しました。
この研究により、オクラがピロリ菌感染予防に効果的な天然の野菜である可能性が示されました。
2023年の中国の四川大学の研究によると、オクラ生産の副産物であるオクラの花に含まれるフラボノイドと多糖類に大腸がんの抑制に効果があるとされました。これらの成分は炎症を抑制することによって、ガンの形成を抑制するとされています。
まだ最近の研究ですので、これからの研究の進行に期待されます。
ネバネバ夏野菜のオクラ。そのネバネバ成分や実に含まれる栄養素には「美容」や「夏バテ」「高血圧」「高コレストロール」「血糖値の急上昇」に良い効果があることが知られてきました。
そして近年の研究により「抗ピロリ菌」「大腸がんの予防」にも良い事が続々と分かってきています。今後も新たな健康効果の研究をオクラを食べながら待ちましょう。
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