日本で古くから食されてきたシジミは、その小さなサイズにも関わらず、驚くべき健康効果を持っています。たとえば、シジミは豊富な鉄分を含んでおり、貧血の予防に有効です。また、オルニチンというアミノ酸を含んでいるため、肝機能のサポートにも役立ちます。これらの成分は、シジミが健康食品として重宝される理由の一部です。さらに、シジミは水質浄化に貢献するフィルターフとしての役割も果たしており、環境にやさしく持続可能な食品源としての重要性も高まっています。健康と環境に良い影響をもたらすシジミは、現代社会での食生活において注目されるべき食材です。
そんなシジミの国内漁獲高の9割以上はヤマトシジミと言われています。同じく在来種であるマシジミは非常に少なく滅多に見かけることがなくなったシジミです。しかし本来はマサバやマダイなど、「マ(真)」を冠する魚介類は数が多く人々に一番触れ合う機会の多い食材でした。もちろんマシジミも同じく、古くの文献にある「しじみ」と言えば河口付近の汽水域に生息するヤマトシジミではなく、淡水に生息するマシジミでした。
今回の記事では、シジミの種類と生態、そしてなぜマシジミが減り、ヤマトシジミが主流になったのか、また現在、環境との調和としてどのようなことが行われているのかについて深堀していきます。
シジミは二枚貝綱に分類される小型の二枚貝です。シジミの生態の特徴は、淡水域や汽水域で見られることです。シジミの貝殻は通常均等に2枚から成り、蝶番(ちょうつがい・ヒンジ)と靭帯によって蓋を閉じられています。この靭帯は殻を開くためと、閉じる動作を行いシジミの食事や呼吸を助けています。。シジミはまた、腎臓、心臓、口、胃、神経系を持っていることも特徴です。多くの種類には吸管も備わっています。これらの小さな貝は、多くの異なる動物にとって重要な食料源であり、海洋生態系においても重要な役割を果たしています。シジミは世界中で多様な種類が存在し、異なる地域や環境に適応した特有の特徴を持っています。
日本で漁獲されているシジミの9割以上はこのヤマトシジミです。シジミ科の二枚貝で汽水域に生息しています。この種は河川の河口など、淡水と海水が入り混じる環境の砂礫(されき)の水底で見られますが、干潮時には水がなくなる干潟にも生息する能力を持っています。貝殻のサイズは30 ~ 35 mmで、表面は若い時は茶褐色ですが、成長するにつれて黒色へと変化します。内側は初め紫色をしていますが、大きくなると白色になります。雌雄異体であり、卵生です。日本国内では広く食用として利用されています。またサハリンや朝鮮半島にも分布します。
マダイやマサバなど、真(マ)がつく魚介類は本来は一番漁獲の多い品種につけれる名前です。別名、ナリヒラシジミ、オクラシジミ、アワジシジミとも呼ばれています。マシジミは水田や小川に住んでいて昔は身近で一番食べられていたシジミでしたが、田畑で農薬や化学肥料が使われるようになってから数が激減し、現在はあまり見られなくなりました。日本全国の淡水域に生息し、雌雄同体で卵胎生です。殻の内面は紫色で、平均水温19℃以上で繁殖します。
マシジミは環境省レッドリスト2020で絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されており、圃場整備や乾田化などによって生息環境が大規模に失われているという問題があります。また、マシジミに形態的に似ている外来種のタイワンシジミなどの侵入すると、タイワンシジミとマシジミが交雑し、タイワンシジミの特徴の子孫が残りマシジミの数の減少に影響を与えています。
琵琶湖固有種で、水深10m程度の砂礫底や砂泥底に生息し、寿命は7年から8年程度です。雌雄異体で卵生で、殻の表は茶色や黄色や赤みがかった色をしていて内面は濃紫色です。その飴色な見た目から別名「べっ甲シジミ」とも呼ばれています。
殻長は約3cm前後で、黒または茶色の正三角形の形状が特徴です。この貝は冬から春にかけて最もおいしいとされ「寒シジミ」と呼ばれます、特に産卵を直前に控えた3月や4月のセタシジミが最も身に栄養が詰まり美味しいとされています。
セタシジミの名前の由来は、かつてこの貝が琵琶湖から流れ出る瀬田川付近で多く獲れたことにちなんでいます。現在のセタシジミは琵琶湖全域の水深10数メートルまでの水域の砂地に生息する傾向があり、地元の漁業にとっても重要な存在です。
近年では琵琶湖の環境変化などによりセタシジミの漁獲量が減少しており、現地の漁業者にとっては大きな課題となっています。昭和30年代初期頃は年間6000t採れたのが最盛期で、現在は大幅に漁獲量が減少しています。そのため、漁場の保護と資源の持続可能な利用が求められています。
ヒルキシジミはシジミ科に属し、奄美大島以南や沖縄、インド・太平洋域に広く分布しています。ヒルギシジミは特にマングローブ林のような泥湿地な環境に生息していることが多いです。名前の由来はそのマングローブを形成するヒルギ科の植物が密生するような場所に生息しているから。別名でシレナシジミ(西表島)やマングローブシジミとも呼ばれています。
ヒルギシジミは、シジミにしては大型で殻が厚く、殻長が約7cmに成長することがあります。表面は幼い頃は黄緑色ですが、成長とともに漆黒食になっていきます。
食用としても利用されることがあり、マングローブ林で採集されることが多いです。藻類をろ過して栄養を取り、オーストラリア先住民の主食の一つとされ、また中国南部でも食用にされています。日本では食用では無いですが食べられない訳でもないみたいですが、うま味は強いものの、身は固めです。厚い貝殻でカニなどの捕食者から身を守っているという説と、干潮時に大きな貝殻の中に水分を貯えて耐える為との説があります。
主に中華人民共和国および台湾原産のシジミ科の淡水生の二枚貝で、雌雄同体で卵胎生(らんたいせい)の特徴を持ちます。
中国などから食用として輸出されたシジミ類に混ざって世界各地に運ばれ、多くの地域で定着しています。特にアメリカでは1920年代に食用として持ち込まれて以来、全国に広がっています。ヨーロッパでも分布が拡大しています。このシジミは砂抜きの際に稚貝を吐き出すことがあり、そのタイワンシジミの稚貝が下水を通じて河川等に流出することによって分布が拡大している可能性があります。
日本では1985年頃にタイワンシジミが確認され、1988年には岡山県の水路で繁殖していることが確認されました。1990年代に入ってから分布の拡大が明らかになり、関東以西の本州、四国、九州での定着が確認されています。
タイワンシジミはマシジミの好まない比較的汚れた水や護岸に強く、生命力が非常に強いため、一度定着すると 駆除しても5ヶ月くらいで個体数をほぼ元に戻すことができます。また、マシジミとの遺伝子汚染も問題となっており、タイワンシジミの精子をマシジミが吸い込んで受精すると、稚貝はすべてタイワンシジミとなってしまうため、マシジミの分布域に侵入すると3年から4年でマシジミが消失し、タイワンシジミに置き換わる現象が報告されています。
マルスダレガイ科オキシジミ属の二枚貝で、名前にシジミと入っていますが、アサリやハマグリと同じマルスダレガイ科の海生の貝。内湾の泥の中に生息し、見た目がヤマトシジミによく似ている為、この名前になった。もちろん別種なので栄養成分や味も異なります。うま味が強いですが、水分を多く含んでいる為、加熱すると縮みます。また海水の泥の中で生息しているので、アサリなどと同じように3%程度の塩水で3時間程度砂抜きする必要があります。
主な調理方法は酒蒸しやみそ汁の具とされ、独特の苦みがありますが、それを好む方もいらっしゃります。主な産地は三重県や愛媛県などですが、市場に出回ることは滅多になく珍しい貝になります。
この様に現在、国内でシジミと言えば黒いヤマトシジミが一般的な現状です。また元々、淡水に生息し、人々の貴重な栄養源であったマシジミは、その生育域そばでの農薬の使用や、外来種のタイワンシジミの侵入により、その数を減らして環境省レッドリスト2020で絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されています。セタシジミも最盛期よりも大きく数を減らしてしまっています。しかし現在、各漁業組合ではその数を増やすべく、稚貝の放流や、シジミを保護するためにさまざまな規則を設けており、禁漁区の設定や1日に獲るシジミの量を制限するなどの措置を講じています。また、シジミ漁業に使用される道具「鋤簾(じょれん)」は、小さなシジミを逃がし次世代に繋がるように設計されています。
また外来種のタイワンシジミに対する日本政府の対策について、環境省と農林水産省は「生態系被害防止外来種リスト」を策定しています。このリストでは、タイワンシジミが「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種」として記載されており、その拡散を防ぐための注意喚起を行っています。具体的には、「入れない」「捨てない」「拡げない」の3原則を周知し、タイワンシジミの意図しない放流や遺棄を防ぐことが目標とされています。
この様に、環境の変化や外来種、農薬などで減ってしまったマシジミやセタシジミを守り育て、またヤマトシジミも鋤簾の隙間から小さな貝は逃がして継続できる漁業を目指すことによって、環境との調和を持ってシジミと向き合っています。
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