言わずと知れた秋の味覚の高級品「マツタケ」。実は今から80年ほど前は現在より300倍国産マツタケが収穫されていたそうです。なぜ今はこんなにも少なく希少で高級なキノコになってしまったのか、そして何で椎茸やしめじみたいにマツタケの栽培ができないのか、研究は進んでいるのかを深堀してみます。
現在まだマツタケの栽培方法は完成していません。ただ多くの企業、官庁、大学がマツタケの人工栽培について研究しています。それでは何故マツタケ栽培がなかなか実現しないのか、栽培できるキノコと栽培が難しいキノコの違いとは何なのか、実は現在市販されている椎茸、しめじ、舞茸などは「木材腐朽菌」だったりします。そしてマツタケも含める栽培が難しいキノコは「菌根菌」に分類されます。
椎茸やシメジなどのキノコは木材腐朽菌と呼ばれています。木材腐朽菌は木材そのものを分解してエネルギーにして成長します。エサとなる木材と菌糸さえあれば栽培が可能なので、原木(ほだ木)に直接菌床を植えて育てる「原木栽培(主に椎茸)」や、広葉樹の木材をおが屑にしてポットに摘めてそこに菌糸を植えて育てる「菌床栽培(椎茸・しめじ・舞茸など)」が可能になっています。なおマッシュルームは腐葉土を利用して栽培されています。
マツタケは木材を分解してエネルギーを得るのではなく、樹木と共存して成長する「菌根菌」という種類です。菌根菌は土壌中のミネラルを分解して植物に吸収しやすくしたり、根より深いところまで菌糸を伸ばして水分を根に供給したりする代わりに、樹木が光合成で作った養分を菌根菌に渡しています。このシステムを人工的に再現するのが難しく、マツタケの栽培を実現するのを困難にしています。
マツタケは赤松と共生する菌根菌です。そして実は非常に弱い菌なので、痩せて他の菌があまりいない場所でしか増えにくい特性があります。マツタケの産地として有名な京都では人口が増えるにつれて、建築や燃料として木材の需要が増えたが、松材は変形しやすく燃やすとススが多く出るので余り進んで使われませんでした。その結果、山に多くの赤松が残されました。また地面に落ちた落ち葉なども農業の肥料として使われた為、地面も痩せていました。その結果、痩せた土地でも育つアカマツが増え、地面も痩せて他の菌が少ない状況が増え、結果、昭和初期ごろは大量のマツタケが取れたとの記録が残っています。(昭和16年(1941年)が過去最大で12000トン)
ただ、その後、燃料が薪や炭からガスに代わり、肥料も山から持って帰るのが大変な落ち葉から市販の肥料に代わっていき、山に他の木々が増えアカマツ林が減り、落ち葉が増えて他の菌が増えた為、徐々にマツタケの収穫量が減って令和4年(2022年)は39.4トン(絶世期の0.3%)でした。
マツタケ菌の特徴
様々な自治体で地場の産業を盛り立てる為に、アカマツ林を整備して雑木を減らすことにより光が入り、落ち葉も撤去してマツタケの生育に優位になる取り組みが広がっています。またマツタケの菌を培養する菌根苗作成の研究も進められています。
2023年5月に東京大学とかずさDNA研究所の共同研究によりマツタケのゲノム解析に成功しました。これによりマツタケが21,887個の遺伝子を持つことが分かり、それらを研究することによって、マツタケの生態が判明し、マツタケの栽培に繋がるかもしれません。
参照「公益財団法人かずさDNA研究所「マツタケゲノムの完全解読~希少化するマツタケの保全に向けて~」」
2018年に肥料メーカーの多木化学株式会社がマツタケの近縁種である「バカマツタケ」の完全人工栽培に成功したと発表した。バカマツタケは見た目や香りはほぼマツタケと同等なのだが、8~9月に収穫されるために「バカ」などついてしまっています。その後、同社の研究は順調に進んでいる模様で2022年(令和4年)11月より近隣の飲食店に向けてサンプルを提供して市場調査を実施しており、商品化を目指している模様です。
昭和初期は大量に採れてそれこそ人々が気兼ねなく楽しめる秋の味覚だったマツタケ。現在はゲノム解析は進み、アカマツ林の整備も着実に進み、近縁種の人工栽培による商品化も見えてきている様子です。
もしかしたら近々、各家庭の秋の食卓に普通にマツタケが上がる日がくるかもしれません。
This website uses cookies.