家庭の食卓や居酒屋のメニューを彩る魚卵のプチプチ感がたまらないシシャモ。
ただ実は一般的に日本で出回っているシシャモのほとんどは輸入のカラフトシシャモで、国産のししゃもは全体の3%しかありません。元々の日本のししゃもの漁獲高も世界に比べればわずかな量でしたが、世界は漁獲高を維持しているのに、日本では漁獲高は一時期最高時の1/8まで減少し、その後漁獲制限によって1/3まで回復しましたが。しかし、北欧はもっと多くのカラフトシシャモを漁獲していますが、それを維持できています。なぜ、北欧ではこんなにもししゃもが採れるのでしょう?地球温暖化による海温上昇は日本でも欧州でも一緒です。詳しくは後述しますが、北欧各国の水産資源に対する姿勢が大きく影響していると思われます。
今回の記事は、最初にシシャモの名前の由来、国産ししゃもの生態とその漁獲方法、輸入しているカラフトシシャモの漁獲高と北欧各国が水産資源としてのシシャモに対して取った政策についての説明、そして最後にシシャモの栄養素による健康への影響についてご紹介していきます。
ししゃもという名前の由来は北海道の先住民族である「アイヌ」伝承にあります。その伝承によれば雷神カンナカムイの妹が兄が帰ってこないのを心配して沙流川(さるがわ)と鵡川(むかわ)の水源であるシシリムカ・カムイヌプリ辺りに探しに行ったところ、どの集落からも煮炊きの煙が上がっていないことに気が付きました。
カンナカムイの妹が人々の様子を伺うと、飢饉で食べる物が無いようです。カンナカムイの妹は人々を救おうと兄の雷神が大切に育てていた柳の葉をかごに集めフクロウの神に「兄が帰ってくる前に、この命を吹き込んだ柳の葉を川に流してあげて」とお願いしました。フクロウの神がそのかごを持って川の上まで飛んでいき川に柳の葉を流すと小さな魚に変化しました。その時、兄の雷神カンナカムイが帰ってきて大切にしていた柳の葉をむしったことを激しく怒り、女神を叱りました。泣き崩れる女神の涙を受け止めてなぐさめようと魚が集まる姿をみたカンナカムイは妹を許し、他の神々にも声をかけ人々に恵みをもたらしたというお話です。
このお話に出てくる魚がアイヌ語で「スス(柳)ハム(葉)」といい、このススハムが「ししゃも」という言葉の語源になりました。
なお、アイヌには地域によりこの他にも様々な「ししゃも」に関する伝承があるそうです。
参考「アイヌ民族文化財団 えほん「やなぎのはのさかな(柳の葉の魚)」
物語に出てくるししゃも(ススハム)は北海道南部太平洋に生息するキュウリウオ目キュウリウオ科に属する本ししゃもで、鮭同様に特定の川に産卵し、成魚になると川を下って海で生活します。そしてまた産卵の為に川を遡上する「遡河回遊魚(そかかいゆうぎょ)」です。
北海道の太平洋岸にのみ生息しており、10月中旬~11月下旬にかけて特定の河川(十勝川・鵡川など)に遡上して、産卵後オスは死んでしまい、メスは再び海に戻ります(下りししゃも)。メスは海洋で栄養を貯え、また翌年産卵の為に川を遡上します。
北海道のししゃも漁は、この遡上の為に沿岸に近寄ってきたシシャモを、底引き網、掛けまわし漁法と呼ばれる十数メートルの袋状の網を洋上で流しながら船で引く方法でししゃもを漁獲します。
1960年代は年間3000トンの漁獲量がありましたが、1980年代に400トンまで減らし、その後、水産資源確保の為に漁獲量に制限を入れることによって平均1000トン前後ほどの漁獲量しかなく非常に希少で高価な魚です。
一般的に魚介売り場や居酒屋で見かけるししゃもといえば「カラフトシシャモ」で北大西洋アイスランド・ノルウェー、ロシア、カナダで漁獲されているカペリン(英:Capelin)という魚で、日本でも樺太周辺で漁獲されたため「カラフトシシャモ」と呼ばれていますが、上記の本ししゃもとは近縁種ですが別の魚です。
漁獲量は年間100万~400万トン(本ししゃもの1000~4000倍)で、日本には年間3万トン前後輸入されています。海外では脂ののっているオスが好まれるので、オスは自国用に、メスは子持ちシシャモを好む日本に向けて出荷されているようです。
日本のシシャモと漁獲高に差が生まれている一つの理由として、継続可能な漁業を行う為に各国が協力している点があります。2019年に北欧のノルウェーとアイスランドは、ししゃも漁を水産資源回復の為に2~3年間それぞれ禁漁にしていました。その禁漁の効果があって、それぞれのシシャモの水産資源が見事回復し2021年にはアイスランドが、2022年にはノルウェーも、シシャモ漁を解禁しました。シシャモは川を遡上して卵を産んで増えています。漁獲制限ではなく、一切漁獲しない禁漁を、カラフトシシャモの個体数が復活が確認されるまで、2~3年待ったおかげで、魚体数も増え、安定してカラフトシシャモ漁を行える状況にしました。
このような北欧の国々の取り組みによってカラフトシシャモ魚体数は管理され、また減少傾向になれば同じように対応することによって水産資源として、北欧のカラフトシシャモは継続的に維持されているのです。
体長12cm程度の小さな体のカラフトシシャモ(以下シシャモ表記)、その小さな体にたくさんの健康効果があります。それをご紹介します。
エネルギー | 水分 | たんぱく質 | コレストロール | 脂質 | 炭水化物 |
170kcal | 66.4g | 18.2g | 370mg | 11.3g | 0.6g |
カリウム | カルシウム | マグネシウム | リン | 鉄 | 亜鉛 |
210mg | 380mg | 65mg | 450mg | 1.6mg | 2.4mg |
ビタミンB2 | ナイアシン | ビタミンB6 | ビタミンB12 | 葉酸 | パントテン酸 |
0.37mg | 0.8mg | 0.08mg | 10μg | 20μg | 1.19mg |
カラフトシシャモ 栄養成分100g当たり【出典:文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)増補2023】より
シシャモは100g当たり350mgと多量のカルシウムを含んでおり、1日5尾ほど食べれば一日に必要なカルシウム量を摂取することができます。これにより成長期の子供はもちろん骨粗しょう症を心配する高齢の方でも少量でも効率よくカルシウムを摂取することができます。
カルシウムを効率よく吸収する為には、ビタミンCが有効です。焼いたシシャモにレモンなどの柑橘の絞り汁をかけることによって、よりカルシウムの吸収を高めてくれます。
また吸収したカルシウムを定着するのにビタミンDが必要です。ビタミンDは日光に含まれる紫外線に浴びることによって、人体内でも生成できますが、冬場で日照だけでビタミンDの1日の必要量を生成すると仮定した場合、紫外線の強い沖縄県でおよそ10分、関東で30分弱、紫外線の弱い北海道では1時間以上浴びなくてはいけないことになってしまいます。それなので、せっかくのシシャモに含まれるカルシウムを骨に定着させる為にも、食品に含まれるビタミンDを摂取するように心がけましょう。主にキノコ類にビタミンDが含まれていますが、特に天日干しにされたキノコに多く、上手に活用して、丈夫な骨を維持できるようにしましょう。
シシャモに含まれるDHAには脳の神経伝達を活性化する効果があり、それにより学習能力や記憶の向上が期待されます。またDHAとEPAにはアルツハイマー型認知症に効果が期待されています。特にDHAやEPAは魚の頭部や目の周りの脂肪に多く含まれています。頭から尻尾まで全て食べらえるシシャモはDHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸を効率よく摂取することができます。
シシャモにはカリウムが100g当たり210mg含まれており、このカリウムによって、塩分由来の体内の余剰なナトリウムが排出され、それにより血液の濃度が薄まることによって身体が濃度を一定にしようと、余分な水分を排出して血圧を安定してくれます。余計な水分を排出してくれることによって、身体のむくみも予防してくれることも期待できます。
魚に含まれる魚油成分であるDHAやEPAには抗炎症効果が期待できます。2015年10月に京都大学の研究により皮膚アレルギーに効果があることが発表されました。
参考「京都大学 「魚油に多く含まれるオメガ3脂肪酸が皮膚アレルギー反応を抑制する機序の解明 」」
シシャモに含まれるビタミンB2は脂質をエネルギーに変える代謝を助ける効果が期待できます。また含まれるマグネシウムやカルシウムも代謝に関わる酵素の働きを助ける作用があります。
またシシャモにはあまり聞きなれないパントテン酸という水溶性のビタミンが含まれています。このパントテン酸は、エネルギー代謝を行う為の補酵素で、「炭水化物」「脂質」「たんぱく質」の全てを代謝するのに必要です。そして特に脂質をエネルギーに変換させるのに欠かせない栄養素です。
日本人の食事摂取基準(2020年版)ではパントテン酸の摂取基準は男性で5~6mg、女性で5mgと定められています。シシャモには100g当たり1.19mgのパントテン酸が含まれています。ただし、シシャモだけでなく他の食材にもパントテン酸は含まれいますので、バランスの良い食事を心がけていきましょう。(パントテン酸が豊富な食材 椎茸(乾燥):8.77mg 納豆:3.60mg アボガド:1.55mg 鶏卵:1.16mg 全て100g当たり)
子持ちシシャモに含まれる魚卵には多くのコラーゲンが含まれております。コラーゲンは細胞と細胞をくっつける接着剤のような効果があり、これによりきめ細かい肌を維持することが期待できます。また抗酸化作用のあるセレンもシシャモに含まれているで、これにより若々しさを維持することが期待できます。
アイヌ神話で神様が与えてくれたししゃも(柳葉魚)。伝説だけでなくその栄養素も神々からの贈り物といっても過言でないくらい小さな体に詰まっています。
また北欧各国の水産資源の回復を狙っての一時的な禁漁のおかげで、カラフトシシャモの水産資源が守られ、継続的な漁業が行われてます。今後、日本でも取り入れて豊富な水産資源の育成に力を入れて欲しいですね。
シシャモの旬である10月~11月にかけて、旬のシシャモの健康効果を存分に取り入れて、寒い冬を乗り越えていきましょう。
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