唱歌の「茶摘み」の中の有名なこのフレーズにある八十八夜。
立春から数えて88日目のことで、だいたい5月2日あたりになりますが、立春が年ごとに異なりますので若干前後します。また、江戸時代までは現代の太陽暦ではなく、月の満ち欠けを元にした太陰暦(旧暦)で暦を数えていたので「八十八日」ではなく「八十八夜」となったようです。(お月見で有名な「十五夜」も同じ理由です)
この八十八夜は、中国から伝来した春分などの「二十四節気」や端午の節句などの「五節供」の他に日本独自で生まれた「雑節」の1つです。それでは何故、その節目がを表す八十八夜が茶摘みと関係があるのか、次章で詳しく解説いたします。
それでは何故その八十八夜と茶摘みが関係あるのでしょうか?次章ではその理由についてご紹介します。
八十八夜は、ちょうど田植えや種まき、茶畑で茶摘みを開始する頃で、立春から数えれば誰でもすぐに分かるので、昔から農家の方の中で、農作業を始める目安となってきてました。また「八十八夜に摘んだ新茶を飲むと長生きする」という言い伝えがあり、お茶と八十八夜が強く関連づけられています。
「八十八夜に摘んだ新茶を飲むと長生きする」と言われた理由としては、江戸時代の「初物ブーム」があります。「初物を食べると75日寿命が延びる」といわれ、それを信じた江戸っ子は競って初物を買い求めたそうです。初物で初摘み茶とも呼ばれる「新茶」も延命効果が期待されました。
また、漢数字の「八」という文字は下に行くに連れて広がる「末広がり」の形なので、「物事や良縁が末広がる」と運気の良い数字だと江戸時代には考えられていました。その「八」が2つもある「八十八夜」は更に2倍に運気が良いと考えられて「八十八夜に摘んだ新茶を飲むと長生きする」と言われたのです。
ただ、実際に新茶には健康に良い成分が豊富に含まれているので、あながち「長生きする」というのも嘘ではありません。次章では新茶(緑茶)の健康効果について深堀いたします。
新茶が長生きに良いと言われた他の理由として、やはりそれは「新茶が美味しいから」なんですが、その美味しさは実は健康に良い成分によるものなので、新茶と長生きが無関係でもありません。
お茶の葉には初夏にはテアニンというアミノ酸が豊富に含まれています。この新茶の茶葉に含まれるテアニンは昆布のうま味成分である「グルタミン酸」に構造がよく似ていて、お茶特有の旨味の素にもなっていて、私自身も新茶を味わうと「昆布で出汁を取ったのか」と勘違いするほどに洗練された旨味を感じます。
このテアニンはただ美味しいだけでなく、私たちの健康に様々な良い効果を与えてくれます。
テアニンには、睡眠をサポートする効果があり、深い睡眠を促し、目覚めを爽やかにしてくれると言われています。特に、テアニンは覚醒系の神経伝達物質の過剰分泌を調節し、心地よい睡眠をサポートしてくれます。
テアニンを摂取することで、心身がリラックスするα波が増加します。これにより、日々のストレスから解放され、穏やかな気持ちになれるでしょう。
テアニンはストレスを軽減し、不安感を解消する効果があるとされています。自律神経のバランスを整え、ストレスによる身体的な影響を軽減してくれます。
テアニンには、冷え性の改善、美肌効果、脳の健康維持など、様々な追加効果が報告されています。また、髪や肌への保湿効果もあり、美容面での利用も期待できます。
テアニンは茶葉が熟していくと徐々に減少していきます。そのため新茶を楽しむことは、美味しいだけでなく、豊富なテアニンによる健康効果を享受することにもつながります。忙しい毎日を送る中で、一息ついて新茶を楽しむ時間を作ることで、心身のリフレッシュにつながります。
このテアニンですが、日光に含まれる紫外線に触れると、テアニンがエチルアミンに変化し、それがカテキンに変化します。カテキンはお茶の葉が紫外線に負けない様に生み出す抗酸化効果のあるポリフェノールです。この為、紫外線量が増える初夏以降の二番茶・三番茶ではテアニンが減って、代わりにカテキンが増えていきます。
日光を当てず、テアニンが更に豊富な様に育てた茶葉には「玉露」や「かぶせ茶(冠茶)」、抹茶の原料である「碾茶(てんちゃ)」があります。
ただ、ご存じの通りカテキンも様々な健康への良い効果が知られています。
新茶にはテアニンが豊富に含まれていますが、緑茶同様に新茶にも含まれるカテキン成分は、さまざまな体の機能に好影響を与えることが知られています。
カテキンには細胞を保護する力があり、特に体内で生成される過剰な活性酸素を中和して、細胞損傷や様々な疾病のリスクを減少させる効果が期待されます。
新茶のカテキンは、心血管系の健康をサポートし、特にコレステロールの調整に役立つとされています。不健康なLDLコレステロールの量を減らし、心臓病のリスクを下げる効果があると報告されています。
食事後に血糖値が急上昇するのを抑える効果がカテキンにはあります。これにより、糖尿病のリスク管理に貢献し、健康な血糖値を維持するのに役立ちます。
カテキンは強力な抗菌作用を持ち、食中毒や胃の不調の予防に役立ちます。体内での微生物の過剰な増殖を抑えることで、全体的な健康をサポートします。
体脂肪の減少を助けるカテキンの作用により、肥満の予防や体重管理が可能になります。カテキンは脂質の代謝を促進し、エネルギー消費を高めることで体脂肪の減少に寄与します。
新茶にも含まれるカテキンは、口内の健康を守る効果もあります。虫歯を引き起こす菌の増殖を防ぎ、口臭の原因となる要素を減少させることで、清潔な口内環境を維持します。
新茶の楽しみ方は味わいだけではありません。カテキンがもたらすこれらの健康効果を考慮すると、新茶を日常的に楽しむことが、より良い健康状態への鍵となるかもしれません。
国立がん研究センターの2015年のコホート研究「緑茶摂取と全死亡・主要死因死亡との関連について」によると、緑茶を日常的に飲むことは、特に1日に3〜4杯以上を消費する人々において、心血管疾患や循環器疾患などの特定の疾患からの死亡リスクを男女ともに20%弱低減させる可能性があることが示されています。
緑茶の成分であるカテキンやカフェインが血圧、体脂肪、脂質レベルの調節や内皮機能の改善に寄与すると考えられています。ただ、緑茶とがんによる死亡との間には有意な関連は見られませんでした。
これからも様々な研究によって、新茶を含めた緑茶の健康効果が解明されていくのを期待しています。次章ではせっかくの新茶をおいしく楽しむ方法をまとめます。
お茶を抽出している時に、より旨味を出そうと急須を動かしたりすると苦みや雑味が出てしまうので、静かに淹れましょう。
新茶は、うま味成分であるテアニンが豊富なので、スッキリとした甘さの和菓子と一緒に楽しむと良いでしょう。
新茶の季節は、単に美味しいお茶を楽しむ時期以上の意味を持ちます。八十八夜の伝統から生まれる新茶は、日本の豊かな自然と文化を象徴しています。
この時期に摘まれる新茶には、テアニンやカテキンなどの健康に良い成分が豊富に含まれており、私たちの心身の健康をサポートしてくれます。新茶のおいしい淹れ方を学ぶことで、その風味を最大限に引き出し、日常生活における一服の茶の時間を特別なものにすることができます。新茶の季節を迎えるたびに、健康と文化の両方を深く味わいながら、一年で最も新鮮で贅沢なお茶を楽しみましょう。
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